「第6回 医療と産業の国際交流シンポジウム in 関西―健康・医療で世界をリードする関西へ―健康長寿社会づくりと健康・医療戦略関西シンポジウム」を、2014年10月8日(水)大阪大学 中之島センター内の佐治敬三メモリアルホールにおいて、平日午後からの開催にもかかわらず、200名近い参加者を得て開催させて戴きました。
経済産業省近畿経済産業局様、大阪府様、関西経済連合会様、関西経済同友会様、大阪商工会議所様、日本医療機器産業連合会様、Medical Excellence JAPAN様、大阪国際フォーラム様、JICA関西様等からご後援のご支援を賜りましたことを、厚くお礼申し上げます。また祝電を賜りました内閣府副大臣西村康稔様、芦屋市長山中健様、誠に有難うございました。遠路ご参加戴いた多くの皆様に心よりお礼申し上げます。
今回は特別講演に加え二つの基調講演、五つの講演と合計8テーマでご講演を賜り、積極的な議論が行われました、講演会場のみならず第二部の情報交換会の席上でも引き続いての活発な意見交換が行われました。
以下にご講演要旨を紹介させて戴きます。
日本はこれまで世界が経験したことが無い前人未踏の超高齢化社会に既に踏み出した。2013年度の厚生労働省調査では男性の平均寿命が80.21歳、健康寿命が71.19歳(ギャップは9.02歳)、女性は同じく86.61歳と74.21歳(ギャップは12.4歳)となり、65歳以上の高齢化率は23%と世界平均の8%を大きく上廻って世界一である。
この傾向は日本のみならず近い将来には韓国、中国を初めASEAN各国、西欧諸国も同じ傾向をたどり、日本が経験した課題解決への経験は世界に大きく貢献し、具体的な施策を提案することが可能となる。
健康診断などによる予防、医療保険制度・医療サービス、介護保険制度・介護サービス、ロコモ予防、認知症予防、メタボ予防、栄養特に次世代機能性農林水産物・食品の開発を含め、日本の持つ医療技術に医療機器及び諸制度を戦略的にパッケージ化して国際展開することが大切である。
「関西公立医科大学・医学部連合(KNOW)」=京都府立医大(K)、奈良県立医大(N)、大阪市立大医学部(O),和歌山県立医大(W)=の4医科大学・医学部がチームとなって連携、協力することで地域社会の発展と人類の福祉に大きく寄与することが出来る。更に当連合に加えて、大阪市大医学部長荒川先生が全国の医科大・医学部80大学の組織である全国医学部長病院長会議議長をされている関係で、全国の医科大に呼びかけて、志を共有するオールジャパンで、日本の医療の優れた技術や知見を、安倍内閣総理大臣が提唱されるASEANを「健康寿命先進地域」にする「ASEAN健康イニシアチブ」への貢献も可能となる。
日本の成長を確実なものとするためには1.イノベーションによる生産性向上 2.継続的な設備投資 3.労働力確保のための人口増加、女性の活用、高齢者の労働力化 4.海外需要の取り込みが大変重要な4要素である。
日本は既に世界に先駆けて超高齢化社会を迎えており、健康長寿社会の形成に向け、世界最先端の医療技術・サービスの実現により、健康寿命を延伸することが重要である。産業活動の創出、海外展開の促進、我が国経済の成長に寄与するために「健康・医療戦略」を閣議決定し、その4本柱として、「医療分野の研究開発(2020年頃までに10種類以上のがん治療薬の治験開始)」、「新産業の創出(現在4兆円の市場規模を10兆円に)」、「医療の国際展開(海外の医療拠点を現在の3カ所から10カ所程度に」、「医療のICT化(2020年までに医療・介護・健康分野でのデジタル基盤の構築)」を進めている。
医療分野の研究開発では基礎研究の成果に対するマネジメント不足、臨床研究のデータ管理、倫理等の支援体制の不足、ベンチャー企業の不足等の課題に対応するため、来春に日本医療研究開発推進機構を設立し、医療分野の研究開発を推進するとともに、9つの連携プロジェクトとして、「医薬品創出」、「医療機器開発」、「革新的な医療技術創出拠点の整備」、「再生医療」、「オーダーメイド・ゲノム医療」、更には「がん」、「精神・神経疾患」、「新興・再興感染症」、「難病」について2015年、2020年に達成すべき目標を定め、基礎研究から実用化へ一貫して進めている。
世界をリードする医療を提供することで、健康寿命の延伸や、医薬品・医療機器分野における産業競争力向上を通じて経済成長を進め、更には医療技術や産業競争力を活かした国際連携で地球規模の課題への取り組みにより、国際貢献することが期待されている。
日本の持つ経験・知見を活かし「ASEAN健康イニシアチブ」の実現に向けても、今後とも積極的に取り組んでいく。
日本の人口ピラミッドは少子高齢化が進む2050年には完全な逆ピラミッド型になると予想されている。2025年には総医療費が53.3兆円、介護費が19.7兆円と見込まれているが年齢階層別平均医療費を考えれば更に増加することが懸念されている。
生産年齢人口が減少する人口オーナス社会での医学の重要課題として、①効率的な治療法の選択(個の医療)、②傷害された組織の再生(再生医療)、③内視鏡手術、放射線治療など低侵襲治療、④介護者の自立を支援するための施策(リハビリ、装具等)、⑤発達医療による健全な心身の発達、⑥先制医療による治療から予防へのシフト、⑦生活の質を保ちつつ、患者の意思を尊重した最善の医療を提供する終末期医療、⑧新しい技術がいかに効率よく実用化していくか(Translational Research)などがあげられる。
人は生存するために環境に順応し進化を続けてきた。ライフスタイルの急激な西欧化により2型糖尿病が急激に増加しており大きな問題となっている。人の胎生期、あるいは生後初期の栄養状態が中年以降の健康に大きく影響するのではないかと言われている。妊娠時栄養不良などによる低体重出生者が、生後急に豊かな生活環境で生活するようになると、生前のプログラムとの間に違いが生じて、肥満や糖尿病を起こすという考え方ある。これは将来を予測して適応するという現象である。このように生きるために発達プログラミングが働き、成長への投資の減少、エネルギー消費の抑制、低下等により、生活習慣病が引き起こされることが知られてきた。
一人ひとり個人の将来の病気を予測して、個の視点で先手を打つのが先制医療である。これからはバイオマーカーなどの発達により、発症前診断が可能となる。発症前診断でとくに注目を集めているアルツハイマー病は、その症状が現れる前から既に病理学的変化は進行しており、遺伝素因、バイオマーカーを活用して事前に病を発見することが可能になってきた。今後、治療薬が開発されると、早い段階で治療介入して発症を防止、もしくは進行をかなり遅らせることが出来るかもしれない。アルツハイマー病だけでなく、様々な病気に対してこのような先制医療が今後重視される。
2015年春開催の日本医学会総会では新しく考えるべきテーマでの議論を予定しているので産業界からも多数の参加を期待している。首都圏への人口増加が続く一方で今後人口減少が懸念される大阪、京都、兵庫が、優れた研究機関の連携、研究実績、医学関連企業・知的産業クラスターを十分活かし一体となることで、新しい医療関連産業を関西で大きく発展させていくことが可能となる。
心不全患者に対し心筋を再生することを目的に基礎研究から臨床応用まで、この15年間にわたり研究を続け、ようやく心筋再生シートが製品化出来るところまできた。この経験を通じて感じたことは、諸外国に比べ基礎研究の成果が製品化されることが日本では非常に少ない。再生シートも皮膚と心筋では医療器具と医薬品という全く異なる扱いになっており、法自体が未だ整備途上にあり、研究成果が実際に商品化されるまでのハードルも諸外国に比べて非常に高いと考える。
最近は再生医療の基礎研究で世界最先端を走っていることを産業につなげる機運も高まり、早期に新しい医療技術を承認する環境も整いつつあり、日本が世界の再生医療産業を牽引していく可能性が高く、世界からも期待されている。
アメリカのピッツバーグの再生、ドイツの医療機器ビジネスの成功事例等に学び、薬と医療の歴史が長い関西で幅広い医療従事者のための人材育成教育や医療情報発信基地とすべく、各施設との連携を密にした新たな仕組みつくり、システムの構築に貢献していきたい。
超高齢化社会のニーズに応え医療系市場をリードする高度先端医療機器開発は、既に世界市場が30兆円で、過去5年間では6割以上成長し現在も年率5%で拡大している。一方日本はこの領域での輸出国ではなく、成長率も低く貿易収支では6,000億円の赤字国である。
関西の産業活性化にとっても医療機器開発は最重要テーマであり、大阪市立大学が臨床試験、基礎研究、知財管理面で協力することで①医療のニーズを物つくりで具現化する、②大阪の産業を活性化させる目的で大学と中小企業との連携を目指した物つくりコンソーシアムを立ち上げた。
特に医療現場でのニーズと物つくりメーカーが持つ技術力、シーズとのマッチングが課題であり、臨床研究を背景とした医療機器試作・開発が弱点と指摘されていることからも、今回の関西公立医科大学・医学部連合(KNOW)が相互に連携協力することでこのような課題解決に寄与出来るように活動する。
一方、医療・産業のイノベーションを加速するためのアセアン進出は、国策であると同時に、ものづくり医療にとっても日本の市場を世界へ拡大する大きなチャンスとなることから、アウトバウンドの第一歩として、関西公立医科大学・医学部連合(KNOW)が、全国の医学部80校と協力してアセアンにおけるイニシアチブ獲得を進めて行きたい。
20世紀の産業の中心は工学であったが、21世紀は超高齢化社会を迎え医学が中心となる。そこで医学を基礎とする工学・産業を「MBE(Medicine-Based Engineering)」と名付け、提唱した。軟骨伝導現象という医学的発見をスマートフォンなど通信機器に応用することにより新産業が生まれる。また、工業製品の大部分、農業製品、サービスは人に直接関わり、高齢者の健康を考えると製品の開発には医学的に正しいことが要求される。
医師は外科手術や薬で病気の治療や症状の軽減を行うが、人が一生で最も付き合いが長い住環境でこのことを実現する新しい医学「住居医学」を提唱した。そして、MBEを住居医学と融合させ、新しい発想によるまちづくりを行うことにし、これを「医学を基礎とするまちづくり、MBT(Medicine-Based-Town)」と名付けた。具体的には奈良県立医大の現キャンパスと新キャンパスを核として、今井町など周辺を含めた地域に「まちなか医療」を展開する。次世代型ICTシステムを導入することで医学を基礎とする調和のとれたまちづくりを行う。詳細は今年1月に出版した書籍『医学を基礎とするまちづくり(MBT)』を参照して欲しい。
都市部から海、山まで多様な地域を背景とする関西公立医科大学・医学部連合(KNOW)がうめきたで共同体を構築することで、医療だけでなく漢方などの産業を創生する。そして「うめきた」を、アセアンに「医学を基礎としたまち」を輸出する拠点とする。
県の人口は和歌山市周辺に集中し、他の地域は山間僻地であり、和歌山県立医大は特定機能病院、がん診療連携拠点病院、総合周産期母子医療センター、高度救命救急センター、認知症疾患医療センター等の全ての役割を担う病院になっている。
逆に、このような背景から医師臨床研修では首都圏の病院に次いで高い人気を誇っている、そのひとつは自由度の高い研修プログラムにあると考える、和歌山県独自のローテーション方式で高度医療から僻地医療、ドクターヘリを使用した高度救急医療まで医師に必要な全ての研修が受けられるところにある。
特徴ある取組みとしては台風災害時のドクターヘリによる救命救急医療活動、災害医療活動の経験を活かした福島原発被害者への救急医療支援、アジアにおける障害者スポーツ医科学研究の拠点形成活動、又、産官学連携で医療現場のニーズとシーズのマッチングにも積極的に取り組んでおり「医療機器開発コンソーシアム和歌山」も発起人となり支援体制を構築した。
今回の関西公立医科大学・医学部連合(KNOW)が相互に連携協力することで、和歌山が持つ地域特性を活かし、世界に貢献する「人」を育て課題解決に今後とも貢献、努めたい。
大阪府には高度先進医療を実践できるハイレベルな病院が多く存在するにもかかわらず大阪府のがんによる死亡率は女性が全国最下位、男性がワースト2と最悪である、2013年公表の都道府県別に見た平均寿命ランキングでも女性は40位、男性が41位となっている.一方で成人病センターの治療成績は全国トップクラスであり何故なのかと考えさせられる。
超高齢化社会を迎えてカルテのデータは個人に所属する原則に則り、病院間で相互利用が可能な「統一カルテ」、「ICカード」の導入と、クラウド化による効果的、効率的な医療システムの導入で来るべき南海トラフに備える必要がある。また、従来の医療圏から脱却し、効率重視の医療のあり方に取り組み、どこに住んでも高いレベルの医療が公平に受けられる医療体制を構築する必要がある。
オール大阪で医療を推進し、救急医療、高齢者医療、がん・循環器医療、小児医療、周産期医療など、それぞれのニーズに合わせて大阪府・市一体で高いレベルの医療提供を実現する改革の基本ビジョンの実現に今後とも取り組む。
次回第7回シンポジウムは、来年2月頃、関西が健康医療で世界に貢献する指針や具体的な実行に繋がるテーマのご講演を予定しております。
(文責 医療国際化推進機構 理事 金田 治)